時間がポッと空いたので
写真の整理をしていたら
お正月に家族で行った、下田温泉の写真が出てきた。
去年の春に母が体調を崩してから
私の中で何かが変わったようで
20過ぎてまで恥ずかしいと思っていた家族旅行も
二つ返事で賛成した。
当たり前だと思っていたこと。
何年か先には「4人の時間」もなくなる日がくるということ。
一緒に旅行に行ける今があって
私は幸せなんだと思う。
行った場所は
「下田大和館」
私はここに小さい頃から行っていて
一番古い写真を見ると
各部屋についている専用庭で父に抱っこされて不機嫌そうに写っている。
その次は芝生の庭でハイハイをしてる。
おそらく6ヶ月くらいの頃。
中学にあがってからはあまり来ていなかったが
小学校まではチョコチョコと訪れていたので
その宿には沢山の思い出があった。
今回しばらくぶりに訪れたその場所は、あいかわらず海が素晴らしく。
太陽の光を反射して輝く水面は、早朝早くから車を運転していた自分を灰にしてしまいそうな位…キラキラしていた。
海沿いのその宿に到着したのは2時頃。
チェックインまではまだ少し時間があって、私たちはラウンジでウェルカムドリンクを頂いていた。
添えてあったハチミツマドレーヌを食べ終えた母が
「マドレーヌも美味しいけど…少し小腹が減ったわね」
とつぶやいた。
来る途中のレストランで遅い朝食を取ったのが10時すぎ。
そろそろお腹が減ってくる時間だ。
本当はラウンジで軽く食べても良かったのだけど
時間もあるし、折角だから散歩ついでに外に出た。
潮風の中、歩く。
やはり東京よりは少し暖かい。
駅前から少し離れたこの辺りはあまり飲食店はなく
あったとしても、お正月。当たり前のように休業中だった。
20分くらい、歩いていただろうか。
「あ」
兄が思い出したようにつぶやいた。
「そういえば、車でここまで来る途中にラーメン屋を見かけたけど…そこは?」
…ラーメン
「ここまで来てラーメンかよ( ; ゚Д゚)」
と一瞬家族みんなが思ったと思う。
だけど、千と千尋の冒頭のシーンの如く
どこもかしこも「休業中」
そして歩いたことにより
さらに加速している「空腹度」
ここまで来てラーメン。
もしくは諦めてラウンジ。
ここで2択である。
確かに「ここまで来てラーメン」という気持ちはあるが
ラウンジを選んでしまうと
この散歩という名の空腹をいやす旅(30分)が無駄になる。
最初からラウンジで食べてれば良かったのだと思ってしまう事事態が負けなのだ。
だとしたら、ラーメンを選びたい。
だけど自分以外の家族はそれでいいのだろうか。。。
悩むこと2秒半ほど。
「ラーメン、美味いかもな。
海近いし( ´∀`)」
父がよくわからないことを呟いた。
「そうね、いい出汁が出ていそうだわ( ´∀`)」
続けて母もかなり前向きな発言だ。
出汁発言のの出所はわからないが、おそらく
海から取れる何かから出ているに違いない。
兄に父母。
ここで私がなんと言おうと賛成が3になった時点でラーメンは決定だった。
早速、道を戻って兄の言うラーメン屋に向かった。
風になびく何本もの旗と、駐車場に停まっている車でわかるようにそこは確かに営業していた。
「麺は本場北海道から取り寄せてます」
私達ラーメン素人にはよくわからないが
わざわざ旗にして
合計8本もはためかせる程
北海道の麺を使っている事は重要なポイントなんだろう。
だから私は「
いつもの3割増しほどの力を出して麺を味わおう」と、その時思った。
県道沿いの小さい民家のような和風な佇まい。
玄関脇の玉砂利のスペースにはなぜか洋風のテラスセット。
テーブルの上にはマルボロ。
…何この違和感(;・∀・)
不思議な和洋折衷空間を横目に
引き戸を開けて店に入った。
店内は
真正面にカウンター(4席)
左に小上がりの和室
右にテーブル席(4人×2、2人)
和室はよくわからないが、4人がけのテーブル席は埋まっていて
残っているのは2人席とカウンター。
軽く悩んで、父と母はテーブル席に。
私と兄はカウンターに座ることにした。
本当は4人でカウンターにと思ったのだけど
カウンターの左右二つの席が店の私物(ジャンプとか煙草(マルボロ)とか飲みかけのコーラ(ペットボトル)など)で埋まっていたので
この良くわからない席になったのだった。
片付けろよ(゚Д゚;)
と思ったけど、
店の親父がなんとなく清志郎に似ていて言えない。
(逆らえないオーラ)
店に入ったら店に従うのですね( ´∀`)
そうですよね?店長?( ´∀`)
店は
清志郎(親父)と
高校生位の女子(イモト風)のたった2人で切り盛りされているようだった。
濡れたグラスに水が注がれ、目の前に置かれたので
顔を上げると、イモトが立っていた。
垂れた汗を服の袖で拭きながら、満面の笑顔でわたしてくれたメニューを
開いてちょっとびっくり。
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北海味噌…北海風味の味噌
あっさり味噌…味噌。だけどさっぱり。
とうきょう味噌…東京風味の味噌。
とんこつ味噌…とんこつと味噌
こうじ味噌…こうじ味噌
こってり味噌…こってりとした味。
四川味噌…辛味の効いた味噌。
味噌…味噌。
チャーシュー麺…醤油味。
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ここでまた選択なのだが
…味噌ラーメンだけで8種類もある(;´∀`)
しかし考えてみればここは北海道の麺を扱う店。
だったら「味噌」を選ぶのが当然。
チャーシュー麺などもっての他である。
スタバで珈琲以外のものを食べるようなものなのだ。
(私もだけどさ)
完全にアウェーなのだ。
問題は5つある中のどの味噌を選ぶべきか。。。。
味噌の前についている言葉で何となく想像できるものの
最後のシンプルな「味噌」というのが非常に気になった。
これはもしかしたら
「お前に真の味噌の味がわかんのか?」
と清志郎の仕掛けたトラップで
飾り気のない「味噌」こそ本当の味噌なのかもしれない。
味噌の中の味噌…
キングオブ味噌なのか、もしくは本当にただの味噌なのか。
悩んだ挙句、私は5種類の味噌の中でも最も北海道にふさわしいと思われる
「北海味噌」
を頼むことにした。
「もっちゃんは何にするの?」
兄に尋ねると
「俺?俺はとうきょう。」
という答えが返ってきた。
とうきょう味噌…東京風味の味噌。
( ´∀`)
下田に来て、東京風味( ´∀`)
静岡県なのに東京風味( ´∀`)
「ちょ、東京から下田まで来て北海道の麺を扱う店で東京味の味噌注文とか…もっちゃんてばバカじゃないの?ラーメンショップででも食べてなよ!
それより、これにしようよ」
と、
さりげなくキングオブ味噌を薦めてみる。
自分で食べるのは嫌だけど、気になって仕方がない。
「俺もそれ気になったけど…説明文がシンプルっていうか「味噌」ってそれじゃ全くわかんねぇし」
「でも安パイすぎるよ…頼むよ、おねがい。せめて東京以外で。だってここは下田だし。下田で東京味ってなんかおかしいし。」
私は兄を説得し、とうきょう味噌→こってり味噌への変更に成功した。
だけど、「味噌」を注文するまでには至らなかった。
これ以上頼んだら、きっと
「じゃあ、お前が「味噌」にすれば?」
といわれるに違いない。
誰だって自分だけは安全で居たいのだ。
空腹のお腹を満たすのは、冒険じゃないのだ。
冒険やドキドキでお腹イッパイにはなれないのだ。
悟空さじゃあるまいし。
私達はファイナルアンサーで「こってり味噌」と「北海味噌」そして「りんごジュース」を注文した。
特にやることもない私は
カウンター越しに厨房を見ていた。
(というか、勝手に見えるんだけど)
大忙しで動き回る清志郎にイモトが先ほどの私と兄のオーダーを告げる
「北海味噌とこってり味噌です」
「何だよまた北海かよめんどくせぇ」
…
…
( ´∀`)え?
注文したものに「よろこんで」と返す、あの居酒屋とまではいかなくても
肯定の言葉が返ってくるのが当たり前だと思っていた昨日までの私。
「何だよまた北海かよめんどくせぇ」
「 め ん ど く せ え ? 」
…( ´∀`)んんん?
良かれと思って注文した北海味噌は清志郎のお気に召さなかったご様子。
厨房とカウンターの距離では会話など聞こえないと思っているのか
それとも「聞こえても構わねぇ、ここは俺の店だ」なのか
それとも、ただのバカなのか
( ´∀`)
この厨房では
私の今まで考えてもいなかった会話が
飛び交っていたのでした。
(つづく)
※次回予告「りんごジュース(と中の氷)がでかすぎます」